Satoyama 寺家ふるさと村・里山の花物語  高橋長三郎

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寺家ふるさと村・里山の花物語   高橋長三郎



                                2011年5月17日

1.春の初めに

今年も寺家ふるさと村に足を運んだ。おとろえを感じながらも。
もう10余年になるが今年の春はどんなだろうと。
草の芽が出始めた田んぼの土手。今年も春が遅れがち。

黄色い丸味のある花が目に入る。キジムシロかな、ミツバツチグリかな。
葉っぱが三枚。地面から長い柄を出し広げる。
ミツバツチグリだ。キジムシロもそろそろ顔を出す頃だ。

オオジシバリも健在。大柄な葉に黄色い花が目立つ。
これにかくされて見逃していたジシバリに気づく。

スミレの仲間も顔を出す頃だ。やはり春一番のノジスミレがそこここにスミレに似た濃いスミレ色の花をのぞかせる。改めて葉の形の違いを確かめる。
そして、紅紫色の花の奥が白く抜けることでかわいらしさを増すニオイタチズボスミレ。香りはかすか。
スケッチをしていたら「コスミレもあそこに」とご教示。
これも急いでスケッチ。”コスミレは名前とはうらはらに大きい”はずなのに名前通りかわいく仕上がった。
寺家では少し遅れてナガバノスミレサイシン、ヒメスミレ、ツボスミレ(ニョイスミレ)も顔を出す。
失礼しました。タチツボスミレを忘れていました。もちろん元気旺盛にあちこちで花を開かせていました。

2.田んぼの縁飾り

あちこちで花々に出会ううち心もはずみ、足どりも軽くなったようだ。
田起こしまだすまない畦を歩かせていただく。
草々のまだ出揃わない中をじっと目を凝らすと、小さな白い花が目に入ってくる。キュウリグサにも似るハナイバナ、葉と葉の間に花をつけている。実も結んでいた。
ハコベの仲間でも特に花の小さいノミノフスマもいっしょ。

ケキツネノボタンが照りのある黄色い花を咲かせ、金平糖のような薄緑色の実をつけている。花が少し小さく実が細長いタガラシも混じって顔を出していた。

田んぼの中には、姿がかわいく、名前も面白いスズメノテッポウ、カズノコグサが一面に繁っていた。

そろそろ田起しが始まっている。田植も間近か。
ムラサキサギコケの紅紫色の花(白花もあるが)が畦を彩る。そのころ、畑の縁や林辺では、これと花の形・色がよく似るカキドオシが花をつけ垣根を通り越す準備を整える。

これらの田んぼの縁飾りは、このあと一そうにぎやかさを増し田植えを迎えるため田んぼに鋤をこまれて姿を消していく。

3.春たけなわ、森では

森の中の散歩道を行く。朱赤色の背の低いクサボケは終わった。まばらな藪に蝮模様の槍を突き出していたマムシグサの仲間が見事な花を開いている。恐ろしげで気味が悪いが面白くもある。
仏炎苞の中から黒く長い釣糸(?)を出すウラシマソウも見られ、その面白さを引き立てている。

森の中に少し踏み入って見る。
驚いたことにホウチャクソウが一面に広がっていた。他のユリの仲間とちがい、茎が上部で分かれる。その先に五重塔などの軒先にある宝鐸に似た白い花を垂れる。
雌しべの先が外に出るもの、出ないものの二種がある。
手を添えただけで花がポロリと落ちる。最盛期は過ぎたようだ。
他にナルコユリ、ミヤマナルコユリ、アマドコロ、チゴユリ等目立たないが趣きのある仲間も見られる。

話の順が逆になったが、春、若葉の頃、寺家の森を遠くから望むと、あちこちに白い花の群れ咲く木を目にする。その一つはコブシであろう。東北では春の訪れを告げる花として親しまれてきた。関東でも各地にコブシの大木が見られたが都市化の中で姿を消していくのが淋しい。
もう一つはヤマザクラ。今お花見でもてはやされているのはソメイヨシノだが、江戸の頃の花見のスターはヤマザクラ。吉野山の桜もこれが多いという。花だけでなく、同時に開く赤味がかった若葉がその美しさを増す。寺家の森には大木が残っている。
他に植栽のものだがオオシマザクラにも出会った。

森の小道を行くと、敷きつめられた白い落花に出会う。
見上げると、その花がシャンデリアのように咲き垂れている。
これはエゴノキ。やがて結ばれる実は魚を酔わし、ネックレスになって首を飾る。

森を一巡して池のほとりに出る。柵の中だがキンランの花が輝くような黄色が目にとびこんできた。1,2,3・・4株。「まだ健在だったか。」と思わず顔がほころびる。スケッチしながら
「昨の中だからこれからも会えるだろう」と思う。
そして、この5月、別の池の柵の反対側に花を十数個もつけた見事なキンランを見つける。思わずかけ寄ってしげしげと見つめ、「柵の外なのによくぞ達者で。人心未だ滅びず」と一人で悦に入る。

この池の奥に続く遊歩道で見られたツクバキンモンソウ、この辺では珍しいものだが年々少しずつその数を増やしているように見える。シソ科の地味な花のせいか。それにしても喜ばしい。

そう言えば薬草として人に狙われやすいツチアケビはどうなっただろう。二年前、居谷戸への山道で保護され実を結ぶまでになったが、今年はどうなっただろう。手前の池の工事もあって、まだいっていない。

遊歩道ですれちがった顔見知りのカメラの人にオドリコソウの情報をいただく。ヒメオドリコソウのはびこるこの頃、三輪に咲き誇るという。さっそく足を延ばす。
荒れた畑のその先に踊り子のラインダヌのように輪になって花をつけるオドリコソウの大群落。花の色も薄いピンクで風情がある。畑の持ち主に保存を訴えたというのでこれからもまだ見られるだろう。
そろそる5月(旧4月=卯月)半ば、やがてウツギ(卯の花)が寺家の遊歩道に匂うがごとく咲き乱れる季節を迎える。

4.やがて夏

梅雨のむし暑さはまだ続く。
林辺や草原に白い花穂を垂れるオカトラノオが群落をつくる。虎の尾のような形とつぼみから花へと整然と咲き上がるようすは自然の造形の美。

湿りがちな林の縁や田んぼの畦にピンクの米粒のような花が咲き広がる。ミゾソバの群落だ。「お日様」が照り輝くとピンクの米粒が一つ一つ咲き開く。目を近づけるといっそうそのかわいらしさに気づく。
寺家には姿全体が大柄なオオミゾソバの群落も多くミゾソバとの違いを改めて勉強させられた。

多摩丘陵では、そこここに咲き誇っていたヤマユリ。寺家でも少なくなってはいるがまだ所々で見られ、あの香りを漂わせている。種から育てているが、花が咲くようになるまで発芽から最短で5年はかかるという。あの気品のある姿が永くみられるよう今あるものを保護しなければならない。

5.そして秋

紫色や紅紫色の花が目立つようになる。
春にミツバツチグリやスミレたちが咲いていた土手にツルボの参内傘のような花穂が出揃い淡紅紫色に染まる。

アザミの仲間も春のノアザミからノハラアザミに。そして背の高いタイアザミに代わる。

カバが大口を開けているような花が並ぶアキノタムラソウ。ヤマハッカと見違う。アザミに似るタムラソウとは別種。名前がややこしい。

チタケサシが背たけを伸ばし、淡紅色の花穂が青空に輝く。

風にそよよと薄黄色の花がゆれる秋の到来を告げるのはノカラマツ。

林縁の藪にからみついて花を咲かせていたノササゲやヤブマメなどが豆果をつけ、センニンソウも仙人の白いヒゲのような実をつける。

ユウガギク、ノコンギク、カントウヨメナ、シロヨメナなどの野菊が秋の風情を強くする。

自然の減退が寺家にも見られるが、それでも数多くの里山の花が私を引きつけ、心を癒やし、スケッチへの意欲を駆り立ててくれる。





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今年も高橋長三郎さんの植物スケッチ展
https://shashinkairo.seesaa.net/article/201105article_42.html

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